無症状=検査不要ではない ~「感染してるかも」と思ったらPCR検査を~

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はこれまでに蔓延してきたウイルスよりも感染力が非常に強く、感染後に再感染を防ぐ抗体がそれほど長く持たないことや後遺症とみられる症状で困っている人がたくさんいること、高齢者や持病を持つ人が重症化するリスクが高いことが危ぶまれます。

 ウイルスに感染した場合、感染の有無を判断するのに有用な検査がPCR検査です。

 日本で感染が広まり始めてから1年が経とうとしていますが、徐々に検査が簡単に受けられるようになり、自費診療での検査をすることができる機関も増えてきています。

 そこで新たな問題として上がるのが、「検査数の妥当性」です。

 多くの国で得られた統計から、「無症状で、濃厚接触がない人へ検査することの予防効果は低い」「検査数が増えても、患者数は減らない」といった意見も出ています。特に初期の頃は、日本中の人にPCR検査をやれば感染を抑えられるのでは?と思った方も少なからずいると思います。しかし、医療機関の検査能力や費用、感染していてもウイルスが検出されない時期がある等多くの問題があり、現実的なプランではないと言わざるを得ません。また、PCR検査の感度(陽性を正しく陽性と判定できる確率)は70%程度と言われており、偽陰性(感染しているのに陰性と出ること)や偽陽性(感染していないのに陽性と出ること)も避けられません。1)感染という観点で言えば、偽陰性だった場合は検査結果に安堵して、本人の知らないうちに感染を広めてしまう危険性があります。検査数が増えれば当然こういった偽陰性のケースも増えると考えられます。

 しかし、これが理由で「無症状者へのPCR検査拡大」が一概に問題であるとは言い切れません。そもそも新型コロナウイルスの性質として無症状でも感染力があることが知られています。だからこそ無症状の段階で検査をし、陽性と判定された方が周囲の大切な方に感染させてしまう可能性を少しでも下げることが大切なのです。また、早期に検出できればそれだけ早く治療に取り掛かることが出来ます(現在はまだ治療法が確立されていませんが、より早く人工呼吸器を使う等で呼吸を楽にすることは出来ます)。

 症状がある方は一刻も早くクリニック等の医療機関でPCR検査をする必要があるでしょう。しかし、無症状でも検査が必要な人とはどんな人でしょう?それはズバリ、『クラスターが発生しそうな環境にいるため感染リスクが高く、なおかつ事前確率が高い人』です。2020年7月6日の新型コロナウイルス感染症対策分科会ではPCR検査の対象者を議論するときに3つのカテゴリーに分類しています。

①症状がある方
②無症状だが、感染者と濃厚接触したり、集団感染が発生しそうな環境に身を置いていたなど感染の確率が高い方
③無症状で、特に濃厚接触などしておらず、感染の確率が低い方

 まさにこの分類の②にあたる方へのPCR検査は広く行われるべきなのです。よく耳にする「無症状者へのPCR検査は感染拡大を抑えられない」というのは③にあたる方をいくら検査してもあまり意味がないということです。例えば、ステイホームを守っていた人が、どうしても遠くに移動しなければならない場合に自宅でPCR検査を行ったとしても陰性が出るのは予想の範囲内であり、これは無駄な検査と言えます。

 新型コロナウイルス感染所対策分科会会長の尾身氏が先日、バイオ産業でのイベントで「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」という基調講演をされましたが、言葉通りに受け取るのではなく、『クラスターが発生しそうな環境にいるため感染リスクが高く、なおかつ事前確率が高い人』は進んでPCR検査を受けましょう。無症状かどうかに関わらず、「感染してるかも」と思ったらPCR検査を受けましょう。身の周りの大切な人を守るために。




用語

偽陰性:感染しているのに陰性と結果が出てしまうこと。結果に安心して知らずに広める可能性あり。

偽陽性:感染していないのに陽性と結果が出てしまうこと。感染していないにも関わらず通常業務が制限される。

事前確率:条件付き確率の一種。この場合、確実に集団感染が起きた場所にいたと断定はできないが、その確率が高く、そのうえで濃厚接触者と認定されていない確率。言い換えると、検査した場合に予想される陽性率のこと。

参考

1)東京大学 保健・健康推進部 保健センター

http://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/tests/

メモ

そして、既に記したようにPCR検査では一定数の偽陽性が出てしまうことがあります。偽陽性率は1%と言われています。そもそもPCR検査は1検体ずつ独立して検査するわけではなく、効率化をはかるために複数の検体を同時に検査します。同時に検査する検体の一つが陽性であった場合、それが検査の過程で他の検体と混ざってしまうことがどんなに気を付けても起きてしまうことがあります。また、検査では陽性の指標が分かるように純粋な新型コロナウイルスの遺伝子を同時に検査します。それも同じく混ざってしまうことがあります。それを回避するために当院では一度陽性と結果が出た検体をもう一度検査します。その際には他の検体とは別にして検査を行います。また、手技者を医療や生物学に精通している人に限定した上で、手技者以外の監視をつけながら慎重に検査を行っています。これによって偽陽性のまま陽性と依頼した方に伝えてしまう可能性をできる限り下げております。

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