新型コロナ陽性率が上昇中 嗅覚・味覚異常の3人に1人、発熱の10人に1人が陽性

PCR検査の感染・症状データに基づく、人々の意識・行動と検査体制への提言

郵送検査サービスPCR Now
粟飯原 俊介(半熟仮想・自治医大)、小田 啓太(自治医大・F-medical・東大)、
須藤 亜佑美(半熟仮想・Yale)、竹口 優三(F-medical・東京TMSクリニック・福島県立医科大)、
田中 奏多(東京TMSクリニック)、成田 悠輔(半熟仮想・Yale)

私たちは郵送検査サービスPCR Nowを提供しています。私たちの郵送検査サービスは、保険診療の対象(濃厚接触者など)とならない層も含めた幅広い人々を対象としている点が特徴です。検査対象者の多くは何らかの自覚症状や感染者と接触の可能性がある人々です。

今回PCR Nowでは、イェール大学助教授の成田悠輔氏率いる半熟仮想株式会社の協力を得て、PCR検査実施時の問診票データを解析しました。体調不良の症状別に陽性率がわかるのがこのデータの利点です。

解析の結果、体調不良の自覚がある方の陽性率が3月に入って大きく高まっていることがわかりました。

  • 2月には検査者の陽性率が低くなりましたが、3月に入って陽性率が再上昇しています。3月の検査結果では、感染者との接触の申告がない場合でも、発熱がある場合約9%が新型コロナウイルス陽性となっています。嗅覚や味覚の異常を自覚している場合は約30-40%が陽性です。何らかの体調不調があると答えた場合の陽性率は4%弱となっています。これらの数値から、感染者との接触に気が付かずに感染しているケースが増えていることが示唆されます。
  • 一方で、自覚症状も感染者との接触の申告もない場合の陽性率は3月単月では0.06%と比較的低いです。自覚症状はなく感染者との接触の自覚がある人の陽性率は3月単月は0.72%に留まっています。
  • これは、症状や感染者との接触の自覚がある人が自主的に隔離することで、感染を制御できる可能性を示唆しています。症状または接触の可能性がある人々が自発的に休める社会や就労環境が求められています。

データ提供元PCR Nowについて

データの提供は、F-medical equipmentと東京TMSクリニックが実施している新型コロナウィルス郵送PCR検査サービス(https://pcrnow.jp/)によるものです。データの分析や解釈には二社に加え半熟仮想株式会社が参加しました。

F-medicalは、新型コロナウィルスの流行初期に、医学部所属の医師・教員・医学生の有志が、米国パンデミックを機に米国に医療物資を寄付する目的で設立されました。4月には日本でも医療物資不足が深刻となり、特定NPO法人ジャパンハートと組み500以上の大病院に総額1.5億円相当の医療用品の寄付を実施しました。1その後、新型コロナウィルス対策における社会と政府の隙間を埋めてつなぐことを目指し、国や保健所の指定する濃厚接触者には該当しなくても、感染者と接触した可能性がある人や、有症者向けの郵送PCR検査を実施しています。東京TMSクリニックは、米国への医療物資寄付の活動時からF-medicalと協働しているクリニックで、今回はPCR検査用のラボをF-medicalの技術提供で立ち上げました。

郵送PCR検査サービスは2020年7月から開始、11月から感染の拡大と共に、検査依頼数が増加しています。多くの類似郵送PCR検査が無症状者・接触歴がないものを対象に限る中、有症者や接触疑いの検体にも医療機関として対応し、現在の国や保健所がカバー出来ない領域を積極的に対応しているのが他の郵送PCR検査にはない特徴です。

当PCR検査は不活化処理(ウィルスの感染力をなくす処理)を実施することで、有症者・接触疑いの人間の検体であっても郵送による安全な検査を可能にしています。郵送での唾液検査であるので、検査場所への移動や、待合、検査の際に飛沫感染をすることがないのが利点です。不活化にはグアニジンを使用し、新型コロナウイルスのタンパク質を変性させることによって感染性をなくすことができます。しかしながら、同じくタンパク質である PCR の酵素が変性します。このため、核酸抽出過程を経て RNA を取り出すことが検査の精度を確保することに必須です。核酸抽出の試薬は世界的にも非常に品薄になっています。当PCR検査では磁気ビーズ法を用いています。当社では品薄になっている磁気ビーズを製薬工場との関係を独自に構築し、有症者も対象にした高精度のPCR郵送検査サービスの安定提供を実現しています。

  • 当郵送PCR検査は有症状・接触の疑いのあるものも対象としていますが、その他にも週に一回のサブスクリプションPCR検査を提供しています。集団のクラスター化を抑えるにはこの週1回の頻度の検査が必要と示された研究があり、当検査開始初期より無症状者への定期的な検査を安価に行い、社会的なクラスター予防の啓発も同時に行っています。最近、この考え方に Google も追従し、世界中の社員9万人に対して同様のサービスをすることになりました。
  • また、新型コロナウイルスの既感染者が、勤務先などにウイルスが検出されなくなったことを証明するために、自宅療養、隔離後に当PCR検査を希望されることがあります。治療や隔離期間が終わった後の確認の検査であっても、ウイルスが検出されることもしばしばあります。保健所からの指導に基づき、隔離期間が終わっていれば感染性がないと医学的に考え、医師による問診から新規感染でないと判断された場合、ウイルスが検出されたとしても感染者と扱っていません。
  • 今回のデータでは、サブスクリプションと既感染者の確認検査はデータから除外してあります。大きく数値に影響するわけではありませんが、データの使用目的として、症状や接触があったときの感染率を推定することを想定しているためです。

データの公開

  • 有症者も対象にした医療機関による郵送PCR検査のため、接触に関する情報や自覚症状などについてのウェブアンケートを実施しています。都市だけでなく、特に検査が受けづらい地域からも検体があつまり、症状や条件毎の検査陽性率についてのデータを日本中から広く集められています。今回はその統計情報を公益のために一般公開します。
  • データは2020年12月1日から2021年3月31日の間に検査結果が記録された物を元にしています。データに含まれている人たちは自らPCR検査を希望した点でバイアスは掛かっており、さらなる調査が求められます。

接触・症状の定義

  • 周囲に新型コロナウイルス感染症と診断された人がいるかの情報を問うことで、保健所の検査対象である濃厚接触者として認められる基準に満たない陽性者との接触者などを広く接触者として定義しました。 
  • 症状についてはウェブによる自己申告でのアンケートを実施しています。臨床で新型コロナウイルス患者に多く認められる以下の疾患について設問を準備しました。
    • 発熱、咳、頭痛、痰、息苦しさ、悪寒、倦怠感、筋肉痛、結膜炎、咽頭痛、吐き気、下痢、味覚の変化、嗅覚の変化

データからわかったこと

  • 陽性と強く関係のあるファクターは2つあります。体調不良(体調が不調だと答えた人)と接触の疑いです。
    • 12月から3月の期間の陽性者全体に対して、有症状は63%、接触の疑いありは41%。両方あてはまるのが21%、どちらでもないのは18%です。
  • 3月の接触や症状の有無によるオッズ比2
    • 症状がない前提での接触のオッズ比は12.9、接触がない前提での体調不良のオッズ比は52.9。
  • 陽性率の上昇:
    • 2月と比べ、3月の有症状者の検体の陽性率が1.6% -> 3.8%と増加しています。無接触に限定した場合は0.6% -> 2.9%です。

  • 各症状別の陽性率・オッズ比:
    • 発熱者の陽性率は12月から3月の期間で9.1%となっています。何らかの陽性者との接触記録がない場合でも6.6%となっており、接触も発熱症状もない検体と比べて発熱者のオッズ比は25.7となっています。 
    • 嗅覚の変化があると答えた人については、12月から3月の期間で陽性率は29.8%。接触がない場合も30%。検体数自体が少ないため陽性率については参考値ではありますが、嗅覚の変化について自覚症状がある場合は陽性リスクが非常に高いと考えられます。 
    • 吐き気や下痢などの症状は臨床の現場では新型コロナ感染者の症状としては多いと報告されていますが、このデータ上は陽性者の記録はありません。報告者自体が少なく、一般に吐き気や下痢が新型コロナの症状として認識されていない可能性があります。 

データの解釈と現状分析

  • 様々なバイアスがあることは承知の上で、発熱は10人に1人(3月単月)、嗅覚・味覚の変化は3人に1人と高い陽性率が示されています。「周りで新型コロナウイルス感染症と診断された人がいる」と答える(「接触」と呼びます。)と1.1%の陽性率です。「なんらかの体調の不調がある」と答える(「体調不良」と呼びます。)と3.8%の陽性率です。ひとまずは、接触と体調不良は新型コロナウイルスに感染をしている可能性がある前提で対処するべきです。
  • 「本人の自覚症状や接触の自己申告」という簡便な判定方法にも関わらず、陽性の可能性が高い人を予測できている、という点が重要だと思われます。
  • 米国疾病予防管理センターなどによる既存の研究は、ベッドサイドで見ているものになるので、重症例が中心ですが、このような調査だと、データが「本人の自覚症状」「軽症例」「早期」に偏る可能性があります。
  • 既存研究に対して、咳は陽性率が全期間で8.0%と比較的低いです。咳は主観的な側面があるので、心配になった人が症状ありとつけやすく、検査集団の特性の可能性があります。(参考: https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6928a2.htm https://academic.oup.com/ofid/article/7/7/ofaa271/5865297?login=true)
  • 陽性者と接触の自覚はなくても自覚症状がある検体の検査陽性率が高いです。これは、感染経路に気が付かないことを示しています。明確な接触歴がなくても症状があれば検査の対象にした方が良いです。
  • また、症状がなかったとしても濃厚接触者よりもゆるい接触定義でオッズ比が3月で12.9であり、濃厚接触よりも検査対象をさらに拡張しなければならない事が示唆されています。
  • 体調不良の中でも「嗅覚の変化、発熱、悪寒、結膜炎(目の痛み・痒み・赤み)、筋肉痛」は新型コロナウイルスについて特に注意をするべき症状で「倦怠感、頭痛、痰、味覚の変化、息苦しさ、咽頭痛、咳」も注意をするべき症状です。
  • 「嘔気」と「下痢」は、今回の調査でなかったのですが、米国疾病予防管理センターの報告だと嘔気と下痢は有症状感染者の中で10-20%くらいみられます。多くの人が見落としている可能性も考えられます。

提言

すべての皆さんに向けて
  • 体調不良であると思った場合は、新型コロナウイルス感染症である可能性がある前提で感染を広げないように休みを取り、新型コロナウイルス感染症と関係する症状があるかどうかを確認の上、医療機関の受診や行政への相談をしていただきたいです。医療機関や保健所等が不必要であると判断をすることもありますが、その際には自己判断での自費検査も考えるべきです。
  • 診療所での医療機関のPCR検査は外部検査機関へPCR検査を委託することが多く、おおよそ2-3日検査から時間がかかることがあります。事前に郵送PCR検査キットをそなえておき、有事にキットを使用することで、おおよそ1-3日で検査結果が家で受け取ることができ、医療資源を節約し、社会における感染拡大の予防が可能になります。感染が拡大し、いつでも身近に感染可能性があると考えられます。会社や自宅などに郵送PCR検査キットを備えておくことも検討にいれてもよいかもしれません。
  • 感染や濃厚接触者になる機会が増えており、身の回りでも接触者になる人がでてくるでしょう。身の回りで接触者になったことを伝えて来てくれた人には、正直に話してくれたことに感謝をして、自分も人との接触を減らしたほうがよいでしょう。現在の状況では、感染経路は分からないことのほうが多く、気が付かないうちに蔓延している状況で、感染者を責めるとその状況を促進することになります。
  • 感染した可能性のある個人が休むためには、周りのサポートが必要です。周囲の人も休む人をサポートし、一緒に新型コロナウイルスと戦うことへの理解が広がることを願っています。
医療者の皆さんに向けて
  • 本データにおいてではありますが、嗅覚や味覚の異常を自覚している人の3人に1人が新型コロナウイルス陽性、発熱している人では10人に1人、体調不良でも20人に1人が陽性となっています。
  • 当PCR検査では、1日で解熱するなど軽微な症状のみの対象者でも新型コロナウイルス陽性となるケースが認められています。受診時に体調が悪くなく、元気な様子であれば、発熱外来でのPCR検査の紹介や自院でのPCR検査を考慮する必要性が低いと考えるかもしれません。しかしながら、軽微な症状でも新型コロナウイルスの感染可能性があるということを意識してほしいです。
  • 11月末にも、強い倦怠感と39度台の発熱、咳と喉の痛みを自覚し、発熱患者等受診相談センターや医療機関にPCR検査の要望をしたものの、検査ができず数日後に自宅で死亡しているのが発見されたという事件がありました。
  • PCR が必要かの判断は医師にとっても難しいことは承知しておりますが、迷ったらPCR検査を指示していただくことを検討していただきたいです。また、すでに快方に向かっていて行政検査の必要性がないと考えられる場合でも、本人が心配していたり、周囲や医療者として感染の可能性が少しでもある場合は個人の判断での郵送PCR検査の選択肢があることを伝えていただきたい。
  • 新型コロナウイルス陽性者と診断された、疑いがあると考えられる人に対する診療時だけでなく、体調の悪い人、発熱の患者さんへの普段の診療から感染予防をしっかりと行い医療者として自身を守っていただきたいです。
更にコロナを押さえ込むために
  • 自己申告の軽い症状や軽い接触など既存の基準で追えない部分にも、高い陽性率を示すことが分かりました。現在の行政検査の対象だけでなく、自覚的な症状や感染の疑いがある人に対してのPCR 検査も新型コロナウイルス感染拡大を予防することへ繋がると考えられます。
  • 有症状、感染疑いがある対象を対応できる郵送PCR検査の需要は日に日に高くなっており、毎週毎週検体数が増えています。私たちは、大学発の強みを生かした技術を開発し、安全性に加えて高い精度を維持する検査を保持しています。この技術は外部組織へ提供することも検討しており、当ラボだけでなく、日本の各地点に郵送PCR検査のラボを増やすことでより国民全体に早く、適切な検査がいきわたって欲しいと考えています。検査の実施をする医療者や医療機関、行政の負担の低減になり、社会として医療資源の枯渇への対応につながると考えます。
  • 日本全体の検査の規模が大規模になるにつれて、検査の精度が高いことと検査の結果が速く出ることが、なおさら重要になってきています。わたしたちは、その努力が認められ、複数の国際空港内においてPCR 検査をしており、新しい変異株のさらなる入国を水際で食い止めております。また、東京TMSクリニックでは、クリニック間の検体委託を利用して、他のクリニックからの検体の検査を受託しております。速く結果が出るため、地方のクリニックからは特に好評です。
  • 自覚症状も感染者との接触の申告もない場合は、3月単月の陽性率は0.06%であり、3月の全陽性者に占める割合は、17.6%です。さまざまなバイアスがあり、さらなる調査を要することは確かですが、接触の申告がない人の症状の申告の有無のオッズ比が52.9で、症状の申告のない人の接触の申告の有無のオッズ比が12.9です。実効再生産率を鑑みると、接触のある人や症状のある人、その周囲の人が、自発的にしばし隔離をするだけでも感染の抑制に貢献できるかもしれません。
謝辞

東京大学医学部附属病院感染症内科の十菱大介助教には、データの分析と解釈の当初より、新型コロナウイルス感染症患者を見ている立場から貴重なアドバイスを頂きました。

<お問い合わせ先>

小田 啓太

E-mail:keita-tky@umin.ac.jp


  1. 実務では製品クオリティチェックと輸入と配布先選定を主に担当
  2. オッズとは、ある事象の起こる確率をpとして、pをその事象が起こらない確率で割るp/(1-p)の値をいいます。オッズ比とは、オッズ同士の比。ここでは、接触の自覚がある場合について、ない場合と比べて陽性へのなりやすさを表しています。

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