最近よく見かける、「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」の違いについて、その違いがよくわからないという声を多く聞きました。
これらの違いをしっかりと理解されている方は少ないかと思います。
しっかりとした消毒方法を理解することで、ウイルスに対して効果的な消毒・除菌ができるようになり、新型コロナウイルス感染症や他の感染症を予防することにつながります。
この記事では、「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」の違いについて医学生が詳しく解説していきます。
この記事を読むと、
・「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」の違い
・「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」の新型コロナウイルスを無効化する仕組み
・「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」の正しい使い方注意点
についてわかります。
「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」の違い
どちらとも次亜塩素酸という単語が含まれているため混同される方も多いかもしれませんが、両者は全く異なります。
次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸ナトリウムは、一般に「塩素系漂白剤」として市販されており、花王株式会社が製造販売している「ハイター」などと聞けばピンと来る人も多いのではないでしょうか。
殺菌作用としては、多くの細菌やウイルスに効果を示し、もちろん新型コロナウイルスにも有効です。さらに、ノロウイルスなどアルコールで効かない一部のウイルスにも効果を示すことが特徴です(ノンエンベロープウイルスと呼ばれます。詳しくは次の項で解説します。)
しかしながら、次亜塩素酸ナトリウムは水酸化ナトリウムに塩素ガスを吹き込んで作られるため強いアルカリ性で、目に入ったり皮膚に付いたりするとタンパク質が分解され大きなダメージを与えるので手指の消毒に用いることはできません。また、コロナウイルスに有効とはいえ、濃度には注意が必要です。
厚生労働省は、テーブルやドアノブなどモノに対して用いる場合0.05%になるように薄めて拭くことを推奨していますが、0.15%以上でないとウイルスの不活性化が不十分だとする研究結果もあります。
(戸高玲子ほか(2020), 新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果, 感染制御と予防衛生 4(1) 参照)
次亜塩素酸水
次亜塩素酸水は塩化ナトリウム水溶液と塩酸水を電気分解することで得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液で、酸性の電解水です。(第9版食品添加物公定書 | 厚生労働省)
次亜塩素酸同様、様々な細菌やノンエンベロープウイルス含むウイルスに効果があり、もちろん新型コロナウイルス対策にも有効です。さらに、食品添加物として認可された強酸性/弱酸性/微酸性 次亜塩素酸水の中でも酸性の弱い微酸性次亜塩素酸水はpHが5.0~6.5と弱酸性であり、手指の消毒にも有効です。
しかしながら、次亜塩素酸水は時間の経過や紫外線への暴露によって濃度が著しく低下するので、市販品には十分な注意が必要です。
実際、市販製品の次亜塩素酸水の中には購入直後でも実効塩素濃度が表示を遥かに下回る製品もあるとする報告もあります。
さらに、添付文書やウェブサイト上にコロナウイルスの不活性化率が98%と表示されていたにも関わらず評価試験では不活性化が不十分となったものもあるようです。
(戸高玲子ほか(2020), 新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果, 感染制御と予防衛生 4(1) 参照)
新型コロナウイルスを無効化する仕組み
それでは、どのようにしてウイルスを不活化するのでしょうか。
ウイルスにはエンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスがあります
エンベロープウイルスはカプシドと呼ばれるタンパク質のカプセルの外側にエンベロープと呼ばれる脂質膜を持っています。アルコール消毒液はこのエンベロープという脂質膜を破壊する効果があるのでエンベロープウイルスに効果を示します。
一方、ノンエンベロープウイルスはどうでしょう。ノロウイルス などのノンエンベロープウイルスは、エンベロープを持たない、つまりエンベロープなしでも生きられるという意味で強いウイルスなのです。アルコールはエンベロープを壊すことができますが、その中のカプシドは破壊することができず、結果としてノンエンベロープウイルスはアルコールに耐性を示します。
ここで、アルコールに対して「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」はどのように作用するか見ていきましょう。「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」には次亜塩素酸(HClO)が含まれており、強い酸化力を保有します。
これによって、両者はエンベロープのみならずカプシドも不活化されるため、エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスの両方に除菌効果があるのです。
正しい使い方や注意点
次亜塩素酸ナトリウムは先述したとおり、強アルカリ性の水酸化ナトリウムが含まれており、タンパク質や脂質を変性させるので皮膚や粘膜に付着するのは避けなければなりません。
塩素系漂白剤が手に付いてタンパク質が分解されたためにヌルヌルした経験がある人もいるのではないでしょうか。また、酸性のものと混ぜると塩素ガスが発生するため注意が必要です。
また、次亜塩素酸水も正しく使うことが大切です。次亜塩素酸水は酸性であるため次亜塩素酸イオン(ClO-)に対する次亜塩素酸(HClO)の比が大きくなっています。次亜塩素酸(HClO)が強力な酸化作用を持つことは先述したとおりで、アルカリ性で次亜塩素酸イオン(ClO-)の割合が高い次亜塩素酸ナトリウムよりも強い除菌効果を有します。よって有機物の汚れがある場合は即座に強く反応し、活性が著しく低下するので、予めしっかりと汚れを落としておくことが大切です。
さらに、先述したとおり、期待通りの効果を有さない「擬似」次亜塩素酸水にも注意しなければなりません。エタノールの供給不足で次亜塩素酸水が広く用いられるようになった今、正規の「次亜塩素酸水」ではなく、「次亜塩素酸ナトリウム」に酸を加えたものや「次亜塩素酸ナトリウム」を単に希釈したものが次亜塩素酸水として出回っていることもあります。
正規の次亜塩素酸水であるかどうか見極めずに用いることは危険が伴いますので、注意が必要です。
参考
新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
のページを参考にしています。
詳しく知りたい方はこちらのページをご参照ください。
また、厚生労働省、経済産業省、消費者庁は連盟でこちらのチラシも出しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000645359.pdf
是非参考にしてみてください。
これからも皆様のお役に立てるような情報を発信していきたいと思っております。
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